塾講師 アルバイトの人気の秘密とは!?
現在ほど、働くことの意味が問われている時代はない。
目覚ましのベルに起こされ、眠気を振り払い、いつものように仕事や学校に出かける。
同じ時刻の電車の同じ車両にはだいたい顔見知りの乗客たち、いつも見慣れた車窓の風景、代わり映えのしない電車の広告、いつもの混雑と喧喋、軽い疲労感。
そんなものをぼんやり感じながら、私たちは、ふとスケジュール帳を取り出してながめ、自分の仕事についてあれこれ考えてしまう。
最近とくに、そうした思いにとらわれることはないだろうか。
働くとは何か。
仕事の意味は何か。
こんな疑問は、かつてならば高校生や大学生の悩みであり、青くさい人生哲学上の課題であった。
もちろん、こうした悩みも当の本人にとっては真剣なものであり、深い煩悶のなかで勉強の意味を見失い、いつの間にか学校に来なくなったクラスメートを、私たちは何人か挙げることができる。
彼らの、とても優しいが明るいとはいえない表情は、いまでも心に残っている。
しかし、そうした悩みを引きずらなかった「普通」の若者にとっては、働くことについての疑問は一過性のものにすぎない。
現実に就職の時期を迎え、会社訪問して内定をもらうべく企業の幹部の面接を受けるようになると、多少の違和感を覚えながら、あるいは内心は冷や汗をかきながらも、誰もが精いっぱい未来の戦士の演技をした。
大企業で、多少の優越感にひたりながら、社会的に評価の高い仕事をする。
こうした「働き方」のためにこそ受験勉強をして、きつい思いもしてきたのである。
その総決算ともいうべき就職の時期に「仕事の意味」をいまさら自問することもあるまい。
そして実際、そのとおりになった。
会社に入ると次から次に新しい仕事を覚えるのに必死だったし、企業組織の中で自分に課せられた責任を果たすのに懸命だった。
とりあえず、目前の仕事の課題をいかに解決し、目標を達成するかが大切であり、それの毎日の繰り返し。
しかし、そうした仕事をこなしていくことで、自分も会社の中で認められ、会社も大きく豊かになっていく。
自分と仕事と会社とは、少しも連携に乱れのないフォーメーションのようなものであり、いずれかが離反するということはない。
つまり、仕事あっての自分であり、会社あっての自分ということである。
私たち日本のサラリーマンは、長いことそのように考えてきたはずなのに、いまごろになって、なぜか自分の足もとを見つめ直し、仕事の意味を問い直そうとしている。
そう思ってみると、たしかに本屋では、このところ労働の意味や価値を論じる本がずいぶん多くなった気がする。
しかし、それはなぜだろうか。
なぜ誰もが、仕事を見直し、実際に仕事を変えようとするのか。
また、なぜいまになってそれをするのだろうか。
雇用不安が続いている。
失業率は最悪の数字を更新しており、身の回りでもリストラや退職勧奨の対象となった人の話を聞くことが多くなった。
おまけに、日本の企業には中高年を中心にたくさんの余剰人員を抱えており、本格的な失業社会はこれからともいわれる。
そのことが、仕事の意味について見直す契機になっていると考えても間違いではないかもしれない。
しかし、単純に不況で雇用が危機に瀕しているというのであれば、何も思い悩むことはなかろう。
現在の雇用を価値の高いものとして必死で守ればよいし、運悪く仕事を失った人は少しでも収入の高い自分にあった仕事を求めて活動すればよいことである。
仕事の意味について疑問の余地はないはずだ。
ところが、今私たちが直面している事態は、それだけではない。
いわゆる生産年齢人口に属する15歳から65歳の世代は、すでにほとんどが第2次大戦後の世代であり、とくに職業経験では戦後の企業労働しか知らない。
ということは、私たちの多くは、戦後日本の企業労働をモデルにして仕事というものを考えるのが当たり前になっている。
いいかえると、戦後日本の経済成長を支えてきたといわれる終身雇用慣行のもとで働くことが理想であり、当然の仕事のあり方と考えがちである。
労働者が学校を出て企業に採用されると、特別の障害がない限り原則として1つの企業で勤務し続け、最後には多額の退職金を受領し、企業年金を約束されて定年を迎える。
こうした雇用形態を保障してくれる会社が優れた良い会社であり、こうしたライフスタイルを保障する働き方こそが労働者にとっても優れた雇用形態である。
この終身雇用慣行というのは、単に「長期雇用システム」というシステムだけの問題ではなしさらに増幅されたイメージを与えるものである。
つまり、りっぱな大企業に入った労働者は、生涯の安泰が保障されるが、その代わりに自分の価値観を企業に同一化させ、仕事の全エネルギーを会社に集中させる。
定年後も、企業年金などで会社との関わりを続ける。
いわば自分の生涯を1つの企業に賭けるのであるから、本当は人生のすべての期間でないけれども、やはり「終身」雇用といったほうがぴったりする。
それほどまでに企業との結びつきが強いのである。
こうした強力な結びつきは、仕事そのもの以外の局面でも発揮される。
たとえば、日本の労働者は、平均で約17日の年休を与えられているのに、そのうちの9日余りしか取得していない。
取得しても休暇として利用しているのではなく、病気療養や家庭の用事に利用することが多い。
こうした実態は、終身雇用慣行と無関係ではない。
この終身雇用は、夫婦の役割分担を前提とした家庭にあって成立するものである。
父親は企業労働に全エネルギーをつぎ込む一方、母親は専業主婦として家事、育児・教育、家族介護、地域活動など家庭で生じる活動や問題の全般を受け持つ。
だから、父親は家計維持者であるだけで家庭からは遠ざかり、母親を中心とした家庭ができあがる。
休暇といっても、母親が子供を引き連れて「里帰り」するだけであり、父親は最初の1日か2日だけつき合って、そそくさと仕事に戻る。
休暇の取得回数が少ないのは当然である。
ヨーロッパのように家庭を単位としたヴァカンスを楽しむ習慣は、ついに日本では定着しなかったのである。
そのような終身雇用慣行が、やがて終罵を迎えようとしている。
私たちが「働き方」の常識として知っていたものが、あちこちで音を立てて崩れている。
中高年を中心とする人員の余剰はリストラを余儀なくさせ、定年までの雇用を危うくさせる。
他方で、女性はとうてい「内助の功」で家庭に収まることはできず、雇用労働やその他の仕事のなかに躍り出ることになる。
こうしたなかで、人々の仕事に対する意識は少しずつ、しかし確実に変化していかざるをえない。
いまのこの時代には、仕事をもう一度考え直さないと、自分というものさえわからなくなるのではないだろうか。
しかし、誰がどのように、仕事に対する考えを見直し、変えようとしているだろうか。
私たちは、この本を書くために、いろいろなルートを通じて、多くの人たちの話を聞いた。
そのいくつかを、少し注釈を入れながら再現してみよう。
「父親の姿なんかみてると、何もいま無理して就職しなくてもと思ってしまいますよ」法学部4年生のS君は、わりと軽い調子でそう答える。
3年生の2月から就職活動に入って、いちおう故郷に近い地方銀行で内定をもらった。
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